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セミナー / レポート

Seminar & Report

メーザー・ハウスで開催される、スペシャルライブやセミナーなど、様々なイベントを紹介します。

菊地成孔 ポリリズム講義2

kn2_006前回はクリヤマコトとともにリズム解釈について論理的解釈を加えた菊地成孔のポリリズム講義。分音符と連符の考え方の成り立ちや違い,4分音符と3連符を合わせることでリズムの揺らぎを生みだしていくことなどを大胆に,しかし非常にわかりやすく解説した。今回はリズムの揺らぎが,現在進行形のジャズにどのように影響を与え,活用されているのか。その背景なども含めた講義を行なった。あくまでスマートでカジュアルに解説される菊地成孔の興味深いレクチャーの模様をレポートする。



kn2_008講義は前回の振り返りから始まった。菊地曰く,「現在のポップ・ミュージックは北米を中心に発展しているけれども,それはいろんな地域からきた有色人種の音楽のリズムを取り入れて発展してきた。ジャズなどの黒人音楽は人力による揺らぎがあってグルーヴなどと呼ばれ,それが気持ちいいということになった。一方で機械を使ったテクノは,ソウルやファンクなどの音楽とは対局にあり,“あまりにも機械的で感動する”という流れを生んだ。音楽に対する価値観は無限にあり,どちらがすごいということでもないのでカッチリするのが良かったり,逆にそれが嫌だったりということは好みとしてある。ただ,そこにあるのは結局,人間と機械の二元論で,最近は機械も揺れるようになってきた」と前回も語られたコンピューター・ミュージックによる正確なリズムの提示とその後の流れへと踏み込んでいく。

kn2_010「今度は機械を人力で真似するということになった。リズムボックスは最初ドラマーを真似てつくられたが,今度はドラマーがリズムボックスを真似する時代へと変わる。人間とテクノロジーの発展は人間と機械の技術の追いかけあいなわけです。“こんなのは人間にはとても打てない!”というリズムも結局は人が叩けるようになる」と現代のポップ・ミュージックにおけるリズムの進化の大きな流れを説明。また,「和声進行,メロディ,レコーディング技術の発達は今,小休止の時期にきていますが,“20世紀はリズムの発達の時代”と言われるぐらいリズムも発達した。でも、まだ未開発というか「伸びしろ」があるのが、今の所リズムで、まだまだ可能性があると現在の先端を切り開くポップ・ミュージックの発展はリズムに主眼が置いていることを解説。

kn2_013菊地は続ける。「有色人種のリズムも白人のポップ・ミュージックに洗浄されて広がる中ですごく発達した。ロックンロールが出来るまではクラシックとジャズがポップ・ミュージックの王道を作っていましたが,20世紀の音楽は資本主義に煽られて,半ば強制的に“もっと新しい”メロディ,和声,歌詞ということで発達させられてきたのです。そして気がつくと大衆化して,3分程度で良い感じで気持ちよく“明日も頑張ろう”となれるものになった(笑)。リズムに関して,そういう側面では例えば変拍子なんかは大衆音楽には向かなかった」



kn2_021それでは現在のリズムはどう進んでポップ・ミュージックに取組まれていくのか。菊地は最初にホセ・ジェイムスの音源を流しながら説明した。

「コードやメロディは特に変わったものではないですが,ドラムがよれています。これくらいのよれだと気持ちいいですね。でも,これが10年前だと“ガクガクしていてヘタクソじゃないか”と言われてしまったでしょう。それが今ならかっこいいということになる。もう1曲,ルス・コレバも聴いてみます。これらのドラムはリチャード・スペイブンという相当に革新的なドラマーです。グルーヴがオカシイ」と例に挙げる。ではなぜ特異なのか。

kn2_028「クオンタイズという打ち込みでリズムを揃える機能というか言葉があります。パターンを3連(符)で揃えるか16分(音符)で揃えるかという話なんですが,これはDTM(デスク・トップ・ミュージック)全般の当たり前の機能で,考えや美学もそこにあったりします。1つのリズムを例えば16分で全部揃えるとことをモノクオンタイズと呼びます。例えば,この曲みたいにドラムもキックとスネアは3連で跳ねてる。でもハイハットは跳ねていないとなるとポリクオンタイズ。このドラム・プレイはポリクオンタイズから発想を得ていて,今まではこういうことをするのは“奇を衒ってるなあ”くらいの考えでした。でも,この曲でキックとスネアが16分でとなったら普通のリズムではかっこよくない,逆にハイハットを3連で跳ねたらそれも普通となってしまう」とリズムの構造を解説。

クオンタイズをレイヤーに分けて,何かを3連,何かを4連,何かを3連と分けて発音させた時に,3連で律されているパートと4連で律されているパートが同時に鳴る。今までは1種類だったのが2つに混ざるだけで1+1は2以上になるというのがその複雑に感じることの秘密です。このように2個の組み合わせで相当いろんなことが出来る」とその可能性について様々な比喩や事例を示しながら語った。

菊地はまたこの構造解釈が今,ジャズで新しいトレンドを生み出している鍵であると説明する。そしてそのきっかけはドラムマシンであると。

kn2_041「「我々は、とても人間技では出来ないということが生じると機械に任せようという気持ちになる。でも,それを100%任せるのではなく,ひょっとして人力でも出来るかもしれないと思ってやってみると意外とできてしまう。人間が機械を作ったので,人間が上なんです。結局,機械は人間のやる以上のことはできない。僕はリズムボックスやMIDIが出来た時を目撃しています。その時に言われたのは“ドラマーは仕事が無くなる”ということ。人間ならよれたり間違ったりしますが,ドラムマシンは入力すれば絶対打てる。しかも,機材もたくさん必要でコスト・パフォーマンスも悪いドラマーをリズムマシンは小さな箱1つで済ませた。僕はこの学校(メーザー・ハウス)の初年度,1982年の入学です。MIDIとCDが出来て世の中変わるなという時に「Cメジャー」とかやっていていいのか!? という空気の中で授業を受けてきた(笑)。だから,ドラムの奴とかはガックリきてましたね(笑)。でも,それから30年。ドラマーの仕事は無くなってない。人間はドラムマシンが出来ることは出来る」と振り返ったうえで,現代のジャズについて言及していく。

kn2_042「テクノロジーvs.人間という話では,今,ドラムの時代。そして現在のジャズ,つまりロバート・グラスパー以降のジャズ,ドラマーとしてはクリス・デイブ以降…といっても2011年以降ですが,クリス・デイブはスティーブ・ガッド以来,久々に出たフュージョンの変化といえます。まず録音が変わった。タムがない。複数のキック,スネア,ハイハットを使い分ける。パルスが効いていれば手組は関係ない。『ブラック・レディオ』は最初,打ち込みの音だと思われていたけれど,ふたを開けたら生演奏ですごいビックリされた。リチャード・スペイブンはイギリスのクラブ・カルチャー,ドラムンベースやブロークンビーツを聴いて育ったから自分のベーシックなリズム感にはマシンビートがあるとはっきり言ってる世代の人。マシンビートを手仕事でやって,さらに機械ではできない微妙なところで止まったりする。今のジャズは本当にドラムの時代で,他にもマーク・ジュリアナ,マーカス・ギルモア…たくさんいますが,ようするに彼らの特徴は体の各パートが全部違うクオンタイズで動く。それを全部スキリングした上で機械ではできないようなこと,例えば3連で乗っていた手を4連に戻したり,また3連にしたりと行ったり来たりを簡単に出来る。マシナリー(機械化)からスーパー・マシナリー(超機械化)へということをやってきた人たちなんです」と現在進行形のドラマーたちが一体何をやっているのかを明快に解説。

kn2_057また,ここでは話も少々脱線し,「クラブ・ミュージックの持つ美学はストリートか宇宙へ通じる。グラスパーも宇宙にかなり行きかけている(笑)」など,サウンドの指向性について言及したり,今,グラスパー界隈をどう扱うか,ジャズ評論界隈が右往左往している状況を当時のフュージョン論争と重ねて観測し,自身も「結論はグラスパーもジャズにおかれる」という解答を示しつつ,その議論の行方を楽しんでいるという。

そこに1つの解も示しつつ,現代のリズム解釈へと次第に話は戻っていく。


kn2_071「アドリブはなぜ無くなったか,なぜ歌があるのかというと“クラブ・ミュージックをトレースしたから当たり前”というのはイージー過ぎますね。この問題の有効な解答は実はアドリブのソロがマシナライズされなかったから」と指摘。

「まったく新しいプレイは一度,機械によってとても人間業ではないという状態が提示されて人間がたじろいだ時にそれを超える超人が出てくる。20世紀を終わった世紀として包括するならば,マシナライズとヒューマラナイズの追いかけあいがないと新しいものは生まれなかった」。そこでジャズ史を振り返り,「でもジャズはニューオリンズからスイング→ビバップ→モード→フリーと発達した時,確かにマシナライズは無い。それはジャズはクラシックと並んで手仕事の優秀な集団だったから。ジャズの初期の輝かしい発達は全て手仕事から生まれた。初めてテクノロジーが入ってくるフュージョン初期,スティーブ・ガットのリズムが“これはドラムマシンだ”と騒がれた。そういったフュージョン初期と同じことが起きているのが今。そこには結局サックスマシンはなくて。まあサックスマシン,見当もつきませんが(笑)」と論理的に説得力を持って解説した。

一方でグラスパーのようなクラブ・ミュージック発想ではないところから新しいジャズを発展させているミュージシャンの流れも解説。

kn2_074「交互拍子は変拍子とは違うんですが,これは3+2とかで繰り返される。みんながグラスパーみたいにヒップホップ風にまたはドラムンベースみたいになりたいわけでもない。手仕事で発達していきたい人もいて,それは流れとしてもちろんあっておかしくない。彼らは個人史的にも美学的にもアンチ・ヒップホップという人たち。そしてその出発点がインド。偶然にも紹介するビジャイ・アイヤーはインド人ですが,彼がマイケル・ジャクソンの〈ヒューマン・ネイチャー〉をやっているので聴いてみます」と音源を流し解説を加える。

「これは構造として5+4+4(拍子)。それだけでわからなくなる。でも理解して聴けばなんてことはない。そして全部足すと13。つまり3拍子に1個余りがついた。ダジャレじゃないけど訛りと余りは似てるんですよ。リズムは訛ると余る。これは構造的に余るようになっていて,ベースもドラムもかなり必死になって弾いているのがわかる。見失うとわからなくなりますから。今のトレンドはポリリズムのヒップホップからくる訛りだけではなく,こうした趨勢もかなり大きい」とアフリカ系ではなくインド・ルーツのリズム・アプローチについても解説してくれた。

規定の時間を大きく過ぎながらも菊地の話は止まらない。

kn2_081「今はリズムの時代。和声の発達の時代は終わってしまったので,ポピュラー・ミュージックには難しくて使えないといわれていたリズムが今はR指定も取れて使えるようになってきた。構造を取って見るとインドやアフリカ発のリズムで,パッと聴いても気がつかないゆらぎや,逆にパッと聴いたら魔法みたいだけど構造がわかるとシンプルで,次に聴いたら乗れるようなものが入っている。その際にリズムが見えることが大事なので,アドリブは排除されていったということが一つ。さらに言えばアドリブ・ソロが発達しなかったのはそのマシンが生まれなかったということですね」とまとめた。

「本題に着く前に時間がなくなった(笑)」と語る菊地の講義。それでも十二分に聞き応えのある内容で,この日の受講生たちがみな一様に何かのアイディアを得たような雰囲気で席を立つ姿が印象的だった。ぜひ,次回の講義にも期待したい。

(掲載:JAZZ JAPAN 文・鈴木りゅうた)
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