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MESAR HAUS - 音楽学校メーザー・ハウス

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セミナー

Seminar & Report

メーザー・ハウスで開催される、スペシャルライブやセミナーなど、様々なイベントを紹介します。

菊地成孔×クリヤマコト

《リズム感だけが曖昧な価値になるのは何故か?~モダン・ポリリズムがこじ開けるジャズの未来》

リズムセクションだけではなく、あらゆる楽器の演奏にポリリズム~タイムストレッチ~揺らぎのアプローチが求められている現在、その状況に極めて意欲的な菊地成孔とクリヤマコトが作・編曲、ソロ演奏、歌い方、ラップから演奏への逆影響等々について対談形式でレクチャーします。


卒業生×講師のスペシャル・セミナー。

当校のサックス科卒業生であり、プレイヤー、作曲家、文筆家としても鋭い音楽論を展開する菊地成孔さんと、世界を舞台に活躍するピアニスト/作編曲家で当校ピアノ科講師のクリヤマコトによる対談形式での講義がスタ-ト。


菊地成孔×クリヤマコト 「これは良いとか悪いという話ではなく、リズムについては細かく解読せずにブラック・ボックスになっているのがいままでの音楽教育の流れ」

まずは菊地さんの“リズムを教えること”に対する問題提起からレクチャーは始まりました。

そして現在のリズムについての教育事情的な面からもクリヤ先生が一言。

菊地成孔×クリヤマコト 「もちろんドラム科やパーカッション科ではやりますが、他の楽器でリズムを教えるということはなかなか難しい」

これを受けて菊地さんは、「それは世界的にどこでも一緒なのではないかと思います。和声や対位法などのハーモニーやメロディに関しての理論は語り尽くされ、緻密に教えることができます。一方、全ての楽器は演奏すればリズムを生み出しますが、そこについては“イイ感じにやっておけ”的なことで長い間済ませてきた(笑)。でも、そこを長年放置した結果、バックラッシュを起しているのが現在の状況。現在のミュージシャンが考えるエッジなところはリズムの分析に来ている」と語る。


リズムを考えることは進取の精神に富むミュージシャンに残された大きな選択肢の一つであるというのが菊地さんの考えだ。そして、ジャズの視点からリズムを考えることに話は進んでいく。

菊地成孔×クリヤマコト (菊地)「ジャズの正統な演奏はロックのようにコンセプトをバンドで決めてガチガチに演奏して再現するものではなく、それぞれのプレイヤーに内在する感覚がセッションの中で生まれてくるものですね。私はガチガチにプランニングしてやっているので正道でやる人が増えるといいなと思ってます(笑)。クリヤさんはそのあたりすごく意識して演奏されているのではないですか?」

それ対してクリヤ先生は「ジャズのセッションでは一人ひとりのリズム感が合わさる。この場合グルーヴという言葉が良いと思いますが、 “グルーヴが良い”と“リズム感が良い”というのは全く別の話なんです。クラシックを正確に弾けるテクニカルなプレイヤーの演奏にグルーヴがない場合があります。リズムについてはジャズでもその他の音楽でも“これをやりたい”という精神的部分に入って行かなければ習得しづらく、マニュアル化するのも難しかったというのが現状です」

菊地成孔×クリヤマコト (菊地)「グルーヴするという表現以前は“ノリが良い”とか“スイングしてる”などいろんな言い方をしてました。スイングとは“旋回する”という意味で、グルーヴは“レコードの溝”を指します。レコードをかけて踊るディスコティック以降の言葉です。クリヤさんがクラシックのプレイヤーにグルーヴを感じないことがあると仰ってましたが、グルーヴというのは揺らぎのことでもあるので、これは実に教目化しづらい。教義が進んであらゆることをパラメーター化してきたけれど、全て入れると息苦しいのでリズムについてはブラック・ボックス化してきたんです。一方、音楽を習得するにはじっくりと鍛錬を重ねてそのリズム感を習得していくことは理想的ですが、とても時間がかかる。例えば民族音楽的な要素を取り入れようと現地に赴き、その民族と同じ生活をして…、とやっていたらコスト・パフォーマンスも効率も非常によくない。都市音楽に反映するところまで行けずに現地に行ったまま帰って来れなくなる(笑)。そうではなくて、ここではその構造だけを取り出して科学的に考えてみたい。こういう化学療法は体に悪いんですが、いまさら後戻りはできない(笑)。つまり、“グルーヴもある程度ケミカルに取り出せる可能性があるのではないか?”ということです」


グルーヴを生み出す揺らぎの正体とは何であるのか。まずはクリヤ先生がブラジリアン・リズムを例に解説する。

菊地成孔×クリヤマコト 「ブラジルのリズムを16分音符で割り切って弾いてもシーケンサーが鳴っているようでつまらない。そこで3連のリズムを加えて、16分音符では割り切れない間に入り込む。そこで揺らぎが生まれて面白くなる」

補足するように、割り切れるリズムの例として電子音楽用の規格MIDIを取り入れた音楽について菊地さんが説明を加える。

「MIDIが出来る前は都市音楽もソコソコ揺らいでいて、曖昧で豊かな議論がありました。その後1983年にMIDIが出来て、いまや約30年が経つわけです。当時はバキバキの揺らがないものがカッコイイとなった。今はそれが進んで、揺らいだほうがイイという流れにきている。ただ、現在の揺らいでいるリズムは絶対に揺らがないテクノロジーによるリズムが提示された後の話。それ以前は正確無比に刻むリズムというのは存在しなかった。けれど、MIDI以降は正確なリズムに対してあえて揺らいでいこうという流れになってます。今の人の音楽的志向も“揺らいでいるのが気持ちいい人”と“正確なバチバチした趣向の人”の2つに分かれてますね(笑)」


さらに菊地さんは西洋音楽の五線譜や音符の概念をベースに、クリヤ先生が語る“すっきり割り切れる16分音符と、割り切れない3連符”を引用しながら、揺らぎの正体に踏み込んでいく。

菊地成孔×クリヤマコト 「世界中の音楽が五線譜の中に書き込まれるようになってしまったわけですが五線譜はあらゆる揺らぎを排除していてモノトーナル、モノリズムにすごくむいてます。一方で複数のリズム・アプローチが一つの楽曲に混在するポリリズムやたくさんの調が曲中にあるポリトーナルには向いていない。調でいえばモードの記譜についての論争は解決していません。これは議論してもしょうがない話でシステムが使えない。その機種では使えないソフトを無理矢理パソコンにいれている状態です」

以上のように従来の記譜法が抱える問題点を挙げる菊地さんは、音符表記に関しても現状使われている4分音符・8分音符などの分音符と、3連符・5連符などの連符の記譜法が、1小節を分割した分音符に対して、割り切れない奇数については3連符などと詐称するダブル・スタンダードではないかと言及。また、4分音符が5拍で1小節とする4分の5拍子のような拍子についても“普通に考えれば4分音符ではなくて5分音符となるはずだ”など、誰しもが当たり前と思っていた西洋音楽の矛盾をつく “目からウロコ”的な指摘を次々と繰り出した。

さらに3連符の成り立ちについても、「ヨーロッパの人は続けざまに打たないとリズムを刻めなかったからではないか」という仮説とともに、「3は1を割り切れない。0.333…となるので3連符は必ず揺れます。バンドでも “オマエの2拍3連は早い”とかで必ずケンカになるんですよ(笑)。そして今、都市音楽の中で5連符という要素は排除されていますが、5連符は奇数ですが割り切れます。話は戻りますが、3は分割で考える限り割り切れないので絶対に揺らぐ。それをクリヤさんが最初に言ったように16分(音符)の上に乗っければ必ず揺らぐ。偶数奇数の組み合わせで揺らぎが起こります。これが揺らぎの正体の一つです。例えばトレーニング・メソッドで3連符と16分音符を繰り返したりしますが、これをずっと“ダガダガ・ダンダンダン…”とやっていくとリズムは訛っていきます」
菊地成孔×クリヤマコト このあとも2人が交互に繰り出す斬新なポリリズムの理論に参加者の皆さんの表情は真剣そのもの。講義はさらに現代の音楽の中の揺らぎとしてヒップホップの分析、そしてリズム探求を試みた歴史の両名の解説へと進んでいきました。

80年代に入って登場したMIDI(電子音楽用の規格)は、リズムに対する感覚の変化を促進したことで一つのトピックといえるだろう。 まずは“ヒップホップはジャズの孫”と公言し、ラッパーたちとの交流を深める菊地さんが、具体的に音源を提示しながら鋭く自説を展開していきました。


「ヒップホップではアドリブすることをフロウと言ったりします。これは“ドボドボと溢れる”という意味もあって多義的ではありますが、ここでは“揺らぎ”として説明します。このフロウは初期のラップではほとんど見られせん。例えば、Run-D.M.C.(ヒップホップ黎明期から活躍したグループ)は声を張り上げているけれどフロウはしません。あっても16分音符が跳ねる程度。これが80年代中頃です。その後、フロウが欲しくなってくる。空間があるかぎり揺れたくなる。MIDIが生まれる以前はリズムがまったく揺らがない音楽はなかったので、みんながそこを目指しました。でも、揺れるのはダメという価値観はMIDIの出現で変わっていくのです。とくにラップは音程や和声がない分、リズムに対するアプローチが進んだ。今ではどれだけフロウがズレているかを比べるという状況になりつつある」

菊地成孔×クリヤマコト それを受けて、ポピュラー音楽の歴史に詳しいクリヤ先生がMIDI以前の正確なリズムを探求していた音楽について補足する。

「MIDIで音楽の時間軸をコントロールし、ジャストのリズムを簡単に提示できるようになった。でも、それ以前にジャストを求めて演奏されたものを検証してみると面白い。例えばチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーなどはシーケンサーを使わず、とても正確なリズムで演奏しています。他にも富田勲さんが、一人でドビッシーのオーケストラ曲〈月の光〉をモノフォニック(単音)・シンセサイザーで音を置き換えて作ったりしてます」

菊地さんがメーザーハウスに入学したのは1983年。日本語版MIDI規格発表の年だ。「当時は楽器の練習とMIDIが同居する時代でした。私はそういう世代的な特性もあって、リズムの揺らぎへ執着してしまうんです(笑)。その頃はファンクのような、一見機械っぽく正確にリズムを刻むはずの音楽でも盛りあがるとテンポが早くなるのが多かったんです。そうした発見をする面白さをMIDI以降の人はどう捉えるのか、我々にはわからない」


菊地成孔×クリヤマコト 一方のクリヤ先生も「(時間軸だけでなく)今や音程もコントロールできる時代だから」と、 MIDI以前/以降のジェネレーション・ギャップを口にした。

さらにバークリー音大における現在の人気教科を引き合いに、菊地さんが若い音楽家が求めるスキルを説明した。

「ケーデンス(コードの進行・分解、代理コードなどの理論)が売りという時代が去って、90年代はDTM(デスク・トップ・ミュージック)がバークリーの売りだった。そして、今人気なのは民族音楽で使われている半音のさらに半分、クォーター・トーンの授業。そしてポリリズム」

もはや和音やコード進行はもちろん、 DTMさえも音楽教育の先端にはなく、音程とリズムの揺らぎの探求こそが最も人気だという。では、ジャズ演奏を中心に勉強中の本セミナー受講生たちにとって取り組むべき課題は何か?

「今日伝えたいことの一つは、ラッパーだけがフロウするのではなく、今後は楽器演奏家もやるようになるということ。ラッパーのフロウのように吹く、弾く。そして、ヒップホップのトラックのようにコードを弾く。これはヒップホップ至上主義ということではなく、都市音楽の中で豊かに揺らぎを包含しているジャンルが、今はヒップホップだからです。ヒップホップは最初から調性がないに等しい音楽なのでそれを破壊することにはなりませんが、今やジャズのプレイにもフロウは入ってきています」

菊地成孔×クリヤマコト 菊地さんはこれからのインスト、とくにジャズ演奏家の流れをこのように予見した。対するクリヤは、大きな視点をインスト・プレイヤーが持つことを推奨した。

「もっと歌を重視して欲しい。歌手やラッパーが揺らぎの主人公なんです。ついつい自分やバンドのサウンドを最優先してしまいがちですが、それを一皮むいてもう少し自分のリスニングを進化させたほうがいい」とアドバイスを授けた。また、演奏家がヒップホップの探求を行いリズム・アプローチのアイデアを得ていく意義を次のように総括した。

「フロウは “だらしなく適当にやればヨレる”と安易になりがちですが、“欲しい揺らぎに自ら意識的に持っていくこと、自分でコントロールすること”が重要。それを教目化できるかもしれないと今日は概要を話しました。ただ、このあたりを応用することを考えると、ビバップはバッハの(4つの音による)系列から来ているので、例えば5つの音で出来る節句を使うのは難しいですね。それでも5音を連符的に詰め込むのではなく、ノリとして5連符を感じるだけでアフリカ音楽のようなノリになります。ただ、ヒップホップについて日本ではヤンキー・カルチャー的なイメージがあるので反射的に拒否反応を起しやすい。それでも吸収してジャズに還元できるものは豊富にあります」ヒップホップの今後の可能性やあらたなるジャズの方向性についても熱く語る。


菊地成孔×クリヤマコト 講義終盤の質疑応答のコーナーで質問された“アフリカと並び、リズムを発展させてきたインドを中心とする東アジアの音楽について”は、 「1を分割していく音楽と、最小単位を決めてそれを積んでいく音楽があります。インドやアジアの音楽は後者。これもポピュラー・ミュージックのメインストリームからは排除されてきました。ジャズはヒップホップと同じく割っていく音楽です。その中でも、例えばコルトレーンは分析していくと、ポリリズムをとても包含していてラッパーのフロウみたいですね。一方でマイルスの60年代の演奏は小節の頭を決めていない。積んでいる音楽なのでポリリズムのやり放題です」

幅広い音楽レンジを持つ2人だけに話題はリズムだけに留まらず、ミュージック・ビジネスやマーケットの趨勢など多岐にわたったが、最後の質問として “日本のアイドルの歌に多用されるジャストなリズムへの嗜好について”問われた二人の答えは、

「リズムだけでなく音色というファクターも重要。誰が聴いても面白いと思える音色で最近のポップスは作られている」とクリヤ先生。

菊地成孔×クリヤマコト 一方の菊地さんは「結局、カワイイから好まれるのでは」と笑わせたのち、「音色はリズム以上にカリキュラム化できない。その割には音楽の大きな要素を占めています。だからこそリズムをもっと教目化しておけという気がする」と、リズム教育の必要性と、音色に対する可能性を指摘して講義を締めくくった。



この講義は、現代に生きる音楽家であれば必ずや直面するであろうリズム・アプローチについて、従来のヨーロッパ音楽中心の音楽理論をベースに、いかにそこから漏れたものを論理的に理解していくのか。
リズムについて、これまでニュアンスとして漠然と語られてきた部分を掘り下げ、ジャズの過去・現在・未来をリズム面から学べる新鮮で興味深い内容となりました。

※当日のさらに詳しい内容やインタビューは、雑誌「JAZZ JAPAN」に掲載されています。

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